精神疾患の治療を学ぶことは、患者の回復を支え、社会復帰を促すために必要不可欠です。
向精神薬
中枢神経系に作用し、精神や行動に影響を与える薬の総称です。精神疾患の治療に使用され、抗精神病薬・抗うつ薬・抗不安薬・気分安定薬・睡眠薬(催眠鎮静薬)・中枢刺激薬 などに分類されます。
抗精神病薬
幻覚や妄想、不安、緊張などの精神病症状を改善する薬で、統合失調症や双極性障害(躁状態)などの治療に用いられます。
定型抗精神病薬(第一世代) 従来から使用されている薬です。
✅ 効果:主に幻覚や妄想(陽性症状)を抑える
✅ 副作用:錐体外路症状(パーキンソン症状、アカシジアなど)、高プロラクチン血症
✅ 代表的な薬:ハロペリドール、クロルプロマジン、スルピリドなど
非定型抗精神病薬(第二世代) 副作用軽減のため開発された薬です。
✅ 効果:陽性症状だけでなく、陰性症状(感情鈍麻・意欲低下)にも効果がある
✅ 副作用:体重増加、糖尿病リスク、眠気
✅ 代表的な薬:リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール
主な副作用
錐体外路症状 脳の錐体外路が障害されることで引き起こされる運動障害です。
急性ジストニア:筋肉が異常に収縮し、首や眼が勝手に動く
例:「急に首が反り返る」「目が上を向いたまま動かない」
アカシジア:じっとしていられず、絶えず体を動かしたくなる
例:「座っていられず、歩き回らないと落ち着かない」
パーキンソン症状:手の震え(振戦)、筋固縮(こわばり)、動作の遅さ、仮面様顔貌など
例:「歩くときに足が出にくい」「顔の表情が乏しくなる」
遅発性ジスキネジア:口や舌、手足が無意識に動いてしまう
例:「口を動かすクセが止まらない」「手足が勝手に動く」
代謝系:体重増加・糖尿病・高脂血症(特に非定型抗精神病薬)
循環器系:低血圧・起立性低血圧・心電図異常
消化器系:便秘・口渇・吐き気
神経系:悪性症候群(重篤な副作用)、けいれん
抗うつ薬
うつ病や不安障害の治療に用いられ、脳内の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリン)を増やすことで、抑うつ症状を改善する薬です。
三環系抗うつ薬 効果は強いが副作用も多いのが特徴の薬です。
✅ 効果:セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、強力な抗うつ効果を持つ。
✅ 副作用:口渇、便秘、低血圧、眠気、心毒性(QT延長)
✅ 代表的な薬:アミトリプチリン、クロミプラミン
四環系抗うつ薬 三環系より副作用が少ないが、使用頻度は減少しています。
✅ 効果:ノルアドレナリンの働きを高める。
✅ 副作用:眠気、体重増加
✅ 代表的な薬:ミアンセリン
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬) 副作用が比較的少なく、現在最も広く使われている薬です。
✅ 効果:セロトニンを増やし、気分を安定させる。
✅ 副作用:吐き気、下痢、頭痛、性機能障害、賦活症候群(不安・焦燥感の増加など)
✅ 代表的な薬:フルボキサミン、パロキセチン
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬) SSRIに比べて意欲低下の改善効果が期待できる薬です。
✅ 効果:セロトニン+ノルアドレナリンを増やし、意欲向上にも効果がある。
✅ 副作用:消化器症状(吐き気・便秘)、血圧上昇、不眠、賦活症候群(SSRIより頻度少なめ)
✅ 代表的な薬:デュロキセチン、ミルナシプラン
主な副作用
賦活症候群
抗うつ薬の服薬初期に、不安や焦燥感、衝動性の亢進、不眠などが生じます。特にSSRIやSNRIで発生しやすく、若年者での自殺リスク増加に注意が必要。低用量から開始し、慎重に投与します。
抗コリン作用
口渇、便秘、排尿困難、頻脈などが生じる副作用。三環系抗うつ薬(TCA)で強くみられ、高齢者では認知機能低下のリスクもあります。水分補給や便秘対策が必要で、症状が強い場合は薬の調整を行います。
セロトニン症候群
抗うつ薬の過剰摂取や他のセロトニン作用のある薬との併用により、発熱、筋硬直、振戦、錯乱、発汗などの重篤な症状を引き起こします。早期に気づいて薬を中止し、対症療法を行うことが重要です。
その他の薬
抗不安薬・睡眠薬(ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系)
✅ 効果:不安を和らげ、睡眠を促す
✅ 副作用:眠気、ふらつき、依存・耐性の形成、記憶障害
✅ 代表的な薬
ベンゾジアゼピン系(抗不安薬・睡眠薬)=ジアゼパム
非ベンゾジアゼピン系(睡眠薬)=ゾルピデム
気分安定薬 躁病や双極性障害の躁状態に処方されます。
✅ 効果:躁状態を抑え、気分の波を安定させる
✅ 副作用:吐き気、甲状腺機能低下
✅ 代表的な薬:炭酸リチウム
抗てんかん薬
✅ 効果:けいれんを抑える、気分を安定させる
✅ 副作用:眠気、ふらつき
✅ 代表的な薬:バルプロ酸
中枢神経刺激薬 ADHD・ナルコレプシーの治療などで処方されます。
✅ 効果:注意力を向上させ、過活動を抑える
✅ 副作用:食欲低下、不眠、血圧上昇、依存リスク
✅ 代表的な薬:メチルフェニデート
抗認知症薬
✅ 効果:認知機能の低下を遅らせる
✅ 副作用:心筋梗塞、肝障害、消化性腸潰瘍
✅ 代表的な薬:ドネペジル
注意事項
向精神薬は、個人の体質や症状によって効果や副作用に差があります。同じ薬でも、ある人には効果的でも、別の人には副作用が強く出ることがあります。そのため、医師の指導のもとで適切な薬を選び、用量を調整することが重要です。
また、副作用が強く出た場合や、効果が感じられない場合は、自己判断で中断せずに医師や薬剤師に相談することが大切です。特に、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬などは急に中止すると離脱症状が出ることがあるため、注意が必要です。
薬の効果とリスクを理解し、適切に使用することで、安全で効果的な治療が可能になります。
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